研究の基本的な考え方

年金シニアプラン総合研究機構の今後の事業運営ビジョンについて

第140回理事会(平成25年5月23日開催)決議

1. はじめに

国民の老後保障の中核を担う年金制度は、本格的な少子・高齢社会を迎えて、国民生活やわが国経済において極めて大きなウェートを占めるとともに、最も重要な社会インフラとなっている。年金に関する諸課題は社会的な関心が高く、いまや国民的テーマといっても過言ではない。しかし一方で、年金を巡る論議は混乱の様相も見られ、また、国民の間からは年金に対する信頼を危惧する声も後を絶たない。人口減少時代の到来に伴って経済成長の一層の低下を背景に年金資金運用の困難性を指摘する声もある。高齢化の度合いは今後さらに高まっていく。このような環境の中にあって、年金制度、年金資金運用及び年金生活に関する非営利の専門研究機関としての年金シニアプラン総合研究機構の果たすべき役割はますます大きなものとなっている。

当機構は内閣総理大臣の認定を受け平成24年度から公益財団法人となった。公益目的事業は、年金制度、年金資金運用及び年金生活に関する調査及び研究並びにこれらの情報の収集及び提供事業である。

こうした状況を踏まえて、公益目的事業について、今後、当機構の果たすべき役割や事業運営の方向を明確にするため、事業運営ビジョンを策定したものである。このビジョンの策定の経過及び趣旨は次のとおりである。

  1. 当機構は、昭和53年に年金制度研究開発基金として発足し、平成2年に年金総合研究センターに改称した。平成13年に年金制度に加え年金資金運用の研究を本格化させることとしたのを機に、「研究の基本的考え方」を策定した。以来、これに沿って年金制度や年金資金運用に関する各種の調査研究をはじめとして、シンポジウムやフォーラムの開催、機関誌の定期発行等を通じて、これらの分野の様々なテーマについての理論面、実証面の分析等の成果を積み重ねてきた。
  2. わが国において年金の果たすべき役割がより一層重要となってきたことを考慮するとともに、年金制度の改正や資金運用技術の進展等に鑑み、環境変化に対応しつつ当機構の事業展開の方針を明確にするため、平成17年に「研究の基本的考え方」を改訂し「中期ビジョン」の形にした。また、当機構が平成18年にシニアプラン開発機構と統合し法人名が現在のものとなったのに併せて、手直しを行った。
  3. 当機構は平成24年度から公益財団法人として新たなスタートを切った。これに併せて、8年間は機構資産の取崩しによる事業運営が可能となったところであるが、このことは、8年を期とする運営の枠組みが整ったことを意味するものと考えることができる。また、定款に基づく組織として、研究の長期的な方針などを検討する企画委員会が発足することになった。そこで、従来の中期ビジョンの形であったものを改訂し、新たなビジョンとすることとした。このビジョンは、企画委員会における議論を経て取りまとめられたものである。
  4. このビジョンは、当機構の公益目的事業である調査研究事業について、今後における事業展開の方針を明確にするため策定するものであり、各年度の事業計画を立案する際の指針となるものである。なお、このビジョンは、3~5年程度を想定して策定したものであるが、年金制度等をめぐる状況は、かなり流動的な面もあることから、当機構がそうした変化に伴う新たなテーマについて柔軟に対応できるよう、必要に応じて、見直していくこととする。

2. 当機構の果たすべき役割と目指すべき方向

当機構が、国民のニーズを考慮しつつ、年金制度等をめぐる様々なテーマに関して、研究機関としての客観的な立場から分析を行い、その成果に基づいて、政策提言をはじめ、的確な情報発信を行っていくことは、極めて重要な意味をもっている。また、当機構が、不特定多数の者の利益の増進に寄与するという公益法人としての性格を生かして、年金制度等に関する研究を促進していくための環境づくりを進めていく意義も大きいものがある。そのことを踏まえ、今後当機構の果たしていくべき役割と目標とすべき方向は次のとおりとすべきである。

  1. 当機構は、年金制度、年金資金運用及び年金生活に関する非営利の専門研究機関として、これらの分野の社会的ニーズを考慮した様々なテーマや論点について、客観的、中立的な立場で学術的に高いレベルでの研究に取り組み、必要に応じて政策提言等を行う。また、その成果を対外的に発信することにより、これらの分野の専門性の向上やより実りある議論を深めていくことに寄与する。これらを通じ、年金分野の最も権威ある研究機関としての地位を確立することを目指す。
  2. 年金制度や年金資金運用の経済社会における影響は今後一層大きなものとなるとともに年金受給者数も今後一層の増大が見込まれることに鑑み、年金制度等の果たしている役割や機能について的確に評価した上で、年金制度等に関する正しい知識の普及に努め、この分野の建設的、現実的な国民世論の環境の形成に寄与していく。
  3. 年金制度、年金資金運用については、諸外国の取り組みがわが国に貴重な示唆を与えることから、各国の年金政策の動向や主要年金基金の情報を収集し、蓄積する。また、世界で最も高齢化が進むわが国の年金生活も含む対応に関して、世界各国に対して、情報発信を行っていく。これらを通じ、国際的な情報の発信、普及の面でも高い評価を得ることを目指す。
  4. 年金分野の研究を活性化し、専門性や学術レベルの向上を図っていくため、内外の関係の研究機関や学会、研究者等の研究主体間のネットワークの中核として、積極的な役割を果たしていく。また、若手の研究者に対する活躍の場の提供等年金分野の研究を促進していくための環境づくりを進めていく。これらを通じ、年金に関係する様々な研究機関や研究者等の開かれた自由な意見交換の場を構築していく。

3. 研究テーマと取組み方策

当機構が取り組むべき研究テーマについては、これまで積み重ねてきた実績と培われた強みを生かしつつ、国民世論の動向等も踏まえ、設定していく。当面、当機構として、優先的に取り組んでいくべきと考えられるテーマと取り組みの方策は、次のとおりである。

  1. 公的年金については、老後保障におけるその役割を評価した上で、各テーマの研究に取り組む。制度の長期的持続可能性の確保、給付と負担の見直し、男女格差の是正、非正規雇用者への厚生年金の適用拡大のほか、医療や介護も含む社会保障制度全体の中での公的年金制度の位置づけ・役割分担等多様な論点が考えられるところであり、こうした論点について、実証的な分析を行い、実現可能な政策上の選択肢を整理し、その効果や影響を明らかにするとともに、理論面での検討を行っていく。企業年金等については、マクロ経済スライド等による公的年金の役割縮小に対応するとともに、国民年金被保険者や中小企業の従業員まで含めた幅広い国民の多様な引退後の生活のニーズに応えていくために、ますます重要になると考えられることから、厚生年金基金制度の動向なども踏まえつつ、今後のあり方やその一層の発展を図るための方策について研究を行う。また、各種の企業年金プランの設計等に関して、欧米の事例も参考としつつ、研究していく。
  2. 年金資金運用に関しては、世界金融危機を経て従来当然と考えられてきた資金運用のあり方が根本から見直される状況にあり、経済の成長・発展に資する資金運用やESG(環境・社会・ガバナンス)要素など非財務情報も含めた投資のあり方、リスクファクターからのアプローチ、加入者や受給者などステークホルダーとの関係などについて研究の必要性が高まっている。そうした観点から、様々なテーマを設定し、欧米の主要年金基金の動向等も参考にしながら、研究を進めていく。そうした研究を通じて、投資家にとってより透明で効率的な市場の整備を促進していく。また、研究成果について実務面への応用のためのフォローアップを行う。
    また、資金運用主体の属性や資金規模等の条件を考慮した上で、運用業務のより一層の高度化や改善に寄与すべく諸課題に取り組む。具体的には、投資管理の各プロセスにおいて、合理的、効率的かつ操作可能性の高い手法を追求していく。年金資金の運用組織のあり方や携わる人材に要求される専門性を明らかにしていくことや、投資ニーズに合致する資産や市場の分析評価を行っていくことも研究対象である。
  3. 年金生活については、進展する高齢社会の中で活力ある創造的な社会維持のためには高齢者が生きがいをもって生活できることが重要である。サラリーマンの生活と生きがいに関し定期的なアンケート調査を行ってきているところであり、データと研究の蓄積がある。今後は、時系列的コーホート的な分析を加えていくと同時に、パネル調査の実現に向けた検討を進めていく。生きがいと所得(年金)や貯蓄との関係、国際比較などを行うことにより、世界で最も高齢化している日本における年金生活者の生きがいの源について研究を深め、当機構が実施している年金ライフプランセミナー(PLPセミナー)の充実にもつなげていく。また、超高齢社会では一般に低所得で平均余命の長い独身女性の問題がますます重要になると考えられる。年金のみならず男女共同参画や介護のあり方なども含め研究を進める。
  4. 年金制度は経済社会システムと幅広い関係を有する。年金制度が貯蓄、雇用、経済成長等に与える影響について、多面的な角度からミクロ、マクロの実証的な分析を行い、年金制度の影響や効果を明らかにしていく。また、人口減少・超高齢化社会の到来、高度成長を支えた諸条件の消失、家族の態様や機能の変容、働き方の多様化等わが国経済社会の構造変化が年金制度に与える影響についても分析を行っていく。

4. 今後の事業展開の重点事項

以上を踏まえ、当機構としての事業展開に当たっては、今後次のような事項に重点を置くべきである。なお、これに当たっては、業務の不断の見直しによる効率化を図りつつ、全体として効果的に推進するよう留意すべきである。

  1. 自主研究の充実と受託研究の着実な遂行
    当機構としての潜在能力を発揮し、対外的な発言力を高めていくため、今後、機構の問題意識に基づく自主研究に力点を置き、各分野の調査研究に取り組んでいく。自主研究を充実させていくためには、活動基盤を強化し、研究財源を確保する必要がある。また、現在の科学研究費以外の新たな助成資金の開拓等にも努める必要がある。受託研究については、委託者のニーズや問題意識を踏まえ、顧客満足度の高い研究成果をあげていくことが目標となる。また、研究成果については、委託者が十分実務に活用できるよう必要なフォローアップも行っていく。また、今後、当機構の公益法人としての性格を踏まえ候補となりうる委託先のニーズ調査等を行うことにより、新たな委託先の開拓にも努め、その多様化を図っていく。
  2. 継続的な活動基盤の強化
    わが国では今後ますます高齢化が進んでいくことから、年金制度等に関し様々な議論が絶え間なく続いていくであろう。年金分野の専門研究機関としての役割を適切に果たしていくためには、質の高い調査研究活動を継続できる体制の確保が必要である。この観点から、当面、平成32年度から始まる次期の8年における安定的な運営基盤の構築を目指すことが当機構の極めて重要な活動目標である。
    当機構が平成32年度以降も継続して事業展開を行っていくためには、その活動の財政的基盤を強化していかねばならない。そのため、中立的で質の高い調査研究の実施、関心の高いセミナー、フォーラムの開催などを通じて公益財団法人としての活動に対する理解を得て、寄付金の獲得や賛助会員の拡大につながるよう努めていく。
  3. 効果的な研究推進体制の構築
    研究推進体制については、常勤研究員を中心としつつも、テーマに応じて、外部の有識者等の積極的な参加を得て、レベルの高い体制を整備し、研究を実行するための体制を構築していく。研究員の自主性や専門性を踏まえて、研究員ごとの専門分野を確立するとともに、IT技術の積極的な活用による業務処理の一層の効率化、研究員全体のレベルアップや活性化のための研究員相互の情報、知識の共有化にも配慮していく。
    また、年金の分野の研究者の裾野を広げていくため、これまで当機構の常勤・客員研究員であった者のネットワークを活用するとともに、有望な若手の研究員に対して、研究参加や研究成果の発表等の機会の提供を行っていくことも必要である。
  4. 質の高い普及啓発事業等の実施
    当機構の存在感を高めていく上では、当機構のこれまでの研究実績等を活用して、年金に関心を寄せる様々な立場の方々の問題意識やニーズにマッチした質の高い、セミナー、フォーラムの実施が有効であることから、テーマの設定等に配慮しつつ、積極的に実施する。
    また、機関誌を当機構の調査研究の発信手段としてより一層活用するとともに、編集の過程を調査研究活動の一環として位置づけ、査読論文の受付を行うとともに、情報を収集整理し、議論を深める機会としても活用していく。さらに、インターネットによる報告書や機関誌の内容情報の提供などの効果的な情報発信インフラの整備を進める。
  5. 当機構独自のデータ等の整理蓄積やモデルの構築
    これまで当機構では様々な調査研究活動を行う過程で独自に実施した統計調査や開発した分析手法等も多い。これらの独自データ等は当機構の重要な知的資産として組織的に活用を図っていく必要がある。
    また、年金制度や年金財政と資金運用や経済との関係を分析し、様々な政策上の選択肢を評価するためには、そのツールとして、実証分析に基づき、年金制度を明示的に挿入した、操作可能性の高いモデルが有効である。今後、当機構の研究ポテンシャルを高めていくためにも、そうした当機構の独自モデルの開発に努める。
  6. 各種の研究機関との連携、研究者の支援
    この分野の研究基盤を強化していくための一環として、大学の研究所やその他の研究機関との情報交換を積極的に行うとともに、共同研究の実施やセミナーの共同開催等他の研究機関との共同事業も検討していく。
    また、年金の研究者を支援し、年金に関する建設的な議論を喚起・奨励していく見地から、引き続き日本年金学会を支援するとともに、研究論文の公募事業等についても検討する。
  7. 各種調査研究のサーベイとデータベースの整備等研究促進のための基盤整備
    様々な研究者や調査研究機関などが行う年金に関する調査研究活動の動向を常時把握するサーベイ体制を整備する。また、研究者の研究活動やこの分野の研究環境の整備を進めていくため、外部の研究者や研究機関が幅広く容易に利用可能なデータベースの整備に努めていく。また、海外の年金政策や欧米の主要年金基金の動向等の情報についても整理し、利用可能なデータベースとする必要がある。
  8. 機構の資源を生かした研修、教育支援
    企業年金基金等の関係者を対象に、それぞれのニーズに応じて、年金資金運用や年金生活設計等に関する研修や教育支援活動を行っていく。また、確定拠出年金に関わる投資教育についても、関係機関と連携しつつ、必要に応じて、対応する。さらに、年金教育の適切な展開など新規の事業についても可能性を探り、公益財団法人の事業として有効であると判断されれば、展開を図る。