連載:わかりやすい年金のお話

第1章 「年金」は複雑でわからない?
第3節 第1号、第2号、第3号被保険者とは?

出典:第19回社会保障審議会企業年金部会参考資料3 平成29年6月30日

勉(研究員):前号では年金制度の体系を家に例えて「3階建て」と縦の構造を説明したけれど、今回は第1号、第2号、第3号被保険者が家の中でそれぞれどの部屋に住んでいるか横の構造を見てみよう。フリーランスの花子と元夫で自営業者の太郎さんや息子の二郎くんは左端の第1号被保険者だね。編集者のは真ん中の第2号被保険者で専業主婦の梅子さんは右端の第3号被保険者だよ。
 これで見ればは1階、2階に加えて3階部分の企業年金からも年金が出るのですごくお得だというのが良く分かるだろう?それに加えて奥さんの梅子さんは国民年金保険料を一切払っていないのに1階部分はもらえるわけだからね。の会社にある企業年金は任意の制度で我が国の人口の現役世代である20歳以上65歳未満は約7000万人だけれど、その内、企業年金制度に加入しているのはそのわずか四分の一だけなんだ。
 我が国全体の勤め人の中で企業年金制度の恩恵にあずかっている人の割合は民間サラリーマンと公務員の合計を分母に計算すると三分の一しかいないんだ。一つの企業で複数の制度を持っている会社もあるけれどね。それ以外は退職一時金しかないというように企業年金制度がないところが多いよ。(図参照)従業員規模別加入者推移を見てみると7割を超える大企業では企業年金制度は導入されているが、中小企業(従業員300人未満)においてはリーマンショック後の5年間で経済情勢が悪化したことに伴って減っているね。厚労省の資料によると100~299人で半分から三分の一へ、もっと小さい零細企業では3割から2割へ低下しているんだ。だからのように中小出版社で企業年金があるなんて実にラッキーだよ。

剛(編集者):そうなのかね、隣の芝生は青く見える、ということかな。

勉(研究員):民間サラリーマンや公務員のようなお勤めをしている人の中で「基礎年金+厚生年金+企業年金」という三層構造になっているのはわずか三分の一しかいない、ということが分かればは天引きされていることに文句を言わずしっかり正社員として首にならないように定年まで働くことだね。
 そもそもなんて企業年金制度のある会社に勤めている自分は幸運な勤め人だ、という自覚がないかもしれないからね。

剛(編集者):そりゃそうだね。だってどっちかというとただでさえ安い給料の中で天引きされている社会保険料の一部が「基礎年金+厚生年金」に回っているなんてことを自覚していなかったし、それ以外にも健康保険料とかもあるからむしろ「手取りが少ない」と不満を持っていたわけだよ。

花子(ライター):そうよね、大体自分がフリーランスをしている理由の一つは自分の時間を自由に使えるし、宮仕えだと給料も天引きとか自分が思ったようには使えないのが不満だということもあるんだから。でもなかなか自分では老後資金の準備なんて出来ないけれど、会社に勤めていれば勝手に知らない間に天引きされている分が老後に厚生年金として分厚くなって戻ってくるという話なら、宮仕えも悪くないかもと思ってしまうわ(笑)。それに元夫の太郎や息子の二郎には企業年金制度なんて無縁の代物だもの。

勉(研究員):花子はそうひがまないことだ、というのも花子にだって2,3階部分がないわけではない。それは国民年金基金と個人型確定拠出年金、愛称iDeCoというやつだ。だから剛と同様、基礎年金部分に上乗せして老後の年金を増やすのは自己責任でどうぞ、というのが第1号被保険者に対する考え方だよ。但し、以前であれば第1号被保険者は自営業者で代表されていたわけだが今は非正規雇用者が多くなっている。中には、二郎くんのようにアルバイトをしていて国民年金保険料を払う経済的な余裕がなく上乗せできないのが問題なんだ。
 その非正規雇用者も今は若者だから良いけれど、老後に働けなくなった時になってはじめて「国民年金保険料を納めていない人は国民年金をもらえませんよ。」と言われた時には生活保護でしか食いつなぐことが出来なくなるのではないか、ということが心配されているわけだ。
 それとマクロ経済スライドがすでにビルトインされているので、たとえ40年間にわたり毎月の国民年金保険料を支払い続けても将来もらう年金の実質購買力がかなり低下することも懸念されているんだ。だから第1号被保険者は元気に働けている間から何らかの自衛措置を講じておかないと、老後の生活に支障をきたす懸念があるよ。

花子(ライター):第1号被保険者が第2号被保険者に比べてもらう年金額が少ないと言うけれど、第3号被保険者について、独身の私から見れば不公平だわ。なぜ本人が保険料負担をしないのに国民年金はもらえるのかしら?負担に応じて給付を受けるという社会保険の原則に反しているのではないの?

勉(研究員):さすが花子は鋭いね。確かに第3号被保険者に対する風あたりは強いんだ。たとえば他にも社会保険料の負担が生じる130万円の壁によって正規雇用で働くことを避けてパートなどに留まっていないか、自分で払っているという意識がないので、年金に無関心になっていないか、という批判もあるね。いわゆる「適用拡大」で社会保険料を支払うパートなどが増えれば第3号被保険者は将来的には縮小していくのではないかな。

花子(ライター):適用拡大とは?

勉(研究員):本来はもっと長く働けるのにパートでとどまっている短時間労働者に対しても、厚生年金の適用を進めていることだ。最近は厚生年金保険に加入する元パートの人が増えているんだ。

剛(編集者):それはいいことだね。そもそも労働人口が減っている我が国では公的年金の持続性が危ぶまれるわけだから。

勉(研究員):保険料を払う人口が増えることは制度の持続性向上に貢献するわけだ。だけれどものように「公的年金の持続性」を言い募る人がまだいるけれど、これからのより重大な問題は「給付の十分性」だ。先にも言ったように二郎くんのような国民年金保険料を支払わない若者の老後を考えると、納付とともに、将来設計と自助努力が大事だと思うね。

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