連載:わかりやすい年金のお話

第1章 「年金」は複雑でわからない?
第5節 「年金が危ない‼」というのは本当?

太郎(ライター):ところで一時期「年金が危ない‼」というテーマで雑誌が良く特集を組んでいたよね。最近はあまり見ないようだけど、今日、年金の専門家のも誘ったのは実はそのテーマで書いたら雑誌で採用してくれるんじゃないかと思ったんだけれど、どうかな?

勉(研究員):それは金融機関が投資商品を買ってほしいから、とかテレビのお茶の間番組で取り上げたり週刊誌で特集して年金の危機を訴えれば「売れる」からであって、すなわち、視聴率、購買部数、知名度アップが目的であることが多いね。このようなやり方は、国民の公的年金に対する信頼を土足で踏み台にして、自己の利得を図ろうとするものであるといっても過言でないので太郎がいまさらそんな特集記事を組みませんかと雑誌に提案するのは感心しないね。過去の保険料とそれに対応する給付だけで評価すると、必要な保険料が確保されておらず、巨額の債務超過のように見えるので「年金財政破綻」と言い募るのは間違いだよ。

剛(編集者):でも全く問題がないわけではないんだろう?

勉(研究員):公的年金の問題は二つに分けて考えると頭が整理できる。第一が「年金財政の持続性」、第二が「給付の十分性」だが今、我々のような年金の専門家が恐れているのは第一の問題ではなく第二の問題なんだ。

太郎(ライター):第一の問題は解決済みというわけかい?

勉(研究員):いや、そこまでは言えないけれどね。ただ、かつては年金財政を将来にわたって維持していくため、5年ごとに財政再計算を行い、最終的に必要と見込まれる水準に向かって保険料(率)を段階的に引き上げていく方式が採られていた。これを段階保険料方式という。そこでは、最終的に必要と見込まれる水準の保険料(率)は法定されていなかった。
 そこで少子高齢化が進行していく中でも将来にわたって年金の持続性を確保するため、2004年の改正で、将来の保険料(率)の上限をあらかじめ法定し、その範囲内で給付を賄う方式に改められた。これはコペルニクス的転換だよ。新たな方式では、向こう100年にわたる人口の見通しと一定の経済前提を置き、年金財政がどのようになるのかを明らかにするんだ。そして、保険料(率)の上限の範囲で年金の持続性が確保できるかどうか、チェックする仕組みに変更されたわけだ。
 かつての財政再計算は、5年ごとの保険料(率)引上げのために行われていた。これに対し、それを前提とせず、単にチェックするために行うのが、財政検証といわれるものだ。
 財政検証も少なくとも5年ごとに行うことが定められている。2004年の改正の5年後である2009年に、最初の財政検証が実施された。そして、さらに5年後の2014年にも実施された。(図1参照)
 今度は2019年に予定されている。このように定期的に年金財政の持続性をチェックすることから、「財政検証は年金財政の定期健康診断」ともいわれる。国民年金は全国民共通の年金であり、公的年金の1階部分を構成する最も基本的な年金だ。そこで、充実した基礎年金の給付水準を確保し、年金財政の安定を図るといった観点から、給付費の1/2は国庫負担とされている。2012年に消費税率が5%から8%に引き上げられたのに伴い、これを基礎年金に対する国庫負担引き上げに充当することにより、将来にわたって1/2の国庫負担を確保することが可能となった。
 厚生年金保険料の1/2は雇用主負担とされている。非正規雇用の厚生年金適用が一層拡大しつつあるが、それは年金財政の持続性を高める効果があることが示されている。(2016年10月から従業員501人以上の企業の短時間勤務者へ適用が拡大され、さらに、2017年4月からは、500人以下の企業でも労使合意があれば適用できることになった。)非正規雇用だけでなく、シニアも女性も労働参加が今後一層促進される場合は公的年金財政の持続性が確保されることが2014年財政検証で明らかにされた(人口が出生も死亡も中位推計で推移する場合、労働参加が促進される経済前提のもとでは、将来にわたって、年金財政の持続性のメルクマールである、モデル年金における所得代替率50%が確保されることが示されている)ので、そのためにこそGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は労働参加を促進するようなESG投資(環境(environment)、社会(social)、企業統治ガバナンス(governance)に配慮している企業を重視・選別して行う投資)に注力すべきだというのが研究員としての僕の考えなんだ。

剛(編集者):では第二の方はどうなんだい?

勉(研究員):前にも言ったけれど太郎の息子の二郎のように、非正規雇用の若者が将来もらう老齢基礎年金だけではとても暮らしていけないし、下手をすると生活保護を受けざるを得なくなるかもしれないよ。我々のような年寄りには「非正規雇用なんて他人事」かもしれないけれど、次の世代にとっては深刻な問題なんだ。自分の子供が非正規雇用者になる可能性もあるのだから。

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