連載:わかりやすい年金のお話

第1章 「年金」は複雑でわからない?
第6節 「老後が不安」の背景は?

花子(ライター):「年金が危ない‼」では雑誌が売れないとするとどんなテーマなら良いの?

勉(研究員):厚生労働省の2017年の統計データによると、男性の平均寿命は81歳、女性は87歳だった。では65歳の平均余命はというと、男性で約20年、女性で24年となっていた。つまり65歳で定年を迎えた場合、残りの人生は、「平均寿命から年齢」を差し引いた年数より数年長い。これは平均寿命が0歳児の平均余命であるのに対し、65歳の平均余命はその年齢まで生きてきた人のみで計算した平均だからなんだ。つまり実際のところ「人生90年時代」が既に到来しつつあるね。
 2016年に話題になった『ライフ・シフト』(リンダ・グラットン著)が刊行されたのを機に、近未来に実現すると考えられる「人生100年時代」という言葉が大流行しているんだから、それに便乗するのが手っ取り早いんではないかい?安倍首相も2017年9月にこのグラットン教授をロンドンから招いて「人生100年時代構想会議」を開催しているんだからね。教育、仕事、引退(老後)という3ステージからマルチ・ステージへ人生の設計図を切り替えるべきだという主張は確かに面白いと思うよ。
 ただ、そうは言っても人生三区分の考え方は、もうすぐ定年に直面するという世代にはなじみがあるよね。だから人生三区分の三つ目に切り替える瞬間を迎える現役世代をターゲットにして、単に漠然と「老後が不安」と思っている、その背景を探ってみるのはどうかな

剛(編集者):確かに何となく不安に思っているテーマが目に飛び込んでくると、思わず買ってしまうという購買行動に結びつきやすいからね。

勉(研究員):我々、公益財団法人年金○○〇プラン△△研究機構ではPLP(Pension Life Plan)セミナーと言って定年目前の企業年金制度加入者が夫婦で参加して、その漠然たる老後の不安を「見える化」してもらうというセミナーをしょっちゅう開いているんだ。
 リタイヤ後の人生を充実したものにするためには、勤め人にとり「会社中心」の生活から「家族・友人・地域中心」の生活に切り替える必要が出てくる。その新しい人生で有意義な生活を送る為に必要な3つの要素は「生きがい」「健康」「家計経済」だよね。
 高齢夫婦無職世帯が年金で暮らす家計経済を見てみよう。夫婦で受け取る年金額を世帯別の年間支出の平均額と比べてみると若干不足気味だが、厚生年金をもらえる民間サラリーマンの場合は贅沢さえしなければほぼ均衡しているように見える。
 しかし、生きがいを持って充実した生活を送ろうにも夫婦ともに健康を維持し続けていることが前提条件となる。ここで問題になるのは介護の必要がなく健康的に生活できる期間を示す「健康寿命」という考え方だよ。2016年の厚生労働省データによるとそれは男性が72歳、女性が75歳だった。
 よく健康寿命と平均寿命の差は男性で9年、女性は12年もあるという事を心配だという人がいるけれど、あるコンサルタントの計算によると今後、健康でいられる平均的な期間を「健康余命」と呼んで計算しなおすと65歳の人の健康余命は男性14年、女性16年だそうだ。
 いずれにせよ、年金で暮らす夫婦を脅かす、健康をそこねた際に大きな支出になる「医療費」「介護費」の二つともその見積もりが事前には困難だというのが一つ目の不安要因なんだ。
 もう一つの不安要因は公的年金支給額の削減だ。そもそも日本の公的年金制度は以下の5つの特徴を持つ優れた制度なんだ:

  1. 安定…国が運営しており、年金給付に必要な財源の一部を国が負担している
  2. 終身…老後は生涯年金を受けることができる。
  3. 保障…障がい者や遺族になった時にも保障がある
  4. 安心…物価上昇に対応して年金額が追随する
  5. 控除…支払った保険料は全額社会保険料控除を受けられる

 このうち、4.の物価上昇への追随が2015年に行われた「マクロ経済スライド」により減額修正され、今後もそれによる減額修正が迫られているのも2つ目の不安要因となっているんだろうね。
 厚労省の資料によると「将来の現役世代の過重な負担を回避するという観点から、最終的な保険料水準及びそこに到達するまでの各年度の保険料水準を固定した上で、『現役人口の減少(現役全体でみた保険料負担力の低下)』と『平均余命の伸び(受給者全体でみた給付費の増大)』というマクロでみた給付と負担の変動に応じて、その負担の範囲内で給付水準を自動的に調整する仕組みを導入」とある。
 この説明ではさっぱり意味が分からないね。我が国の年金は世代間扶養の制度であり、高齢者を支える現役世代の減少と平均余命の伸びがダブルパンチで年金財政を圧迫して物価・賃金の上昇率に応じた年金額の同率アップがこれ以上出来ないので年金額を自動的にカットする制度を導入するという訳なんだ。
 賃金や物価の上昇率に対して年金額の伸びを調整するというのはたとえば、物価が3%上昇した場合、年金の増加率は2.1%、その差分だけ実質的に年金が減額されるというわけだ。名目値では上昇しているので気づきにくいところがみそだ。

花子(ライター):じゃあライターという商売抜きで自分のこととして老後の不安を取り除くためのアドバイスは何かあるの?

勉(研究員):「ねんきん定期便」をよくチェックすることだね。これは毎年の誕生日に郵送される「はがき」で50歳未満と50歳以上の2種類あるよ。50歳以上だとこのまま60歳まで保険料を払い続けたら受け取れる「年金の見込み額」が記入されているから、それで老後の家計経済の基礎データが分かるわけだ。
 35歳、45歳の、節目となる年齢の人や、59歳の年金の請求を間近に控えた人には、「封書」の「ねんきん定期便」を送られてくるよ。
 「封書」の「ねんきん定期便」には、年金加入記録の確認方法などを詳しく記載したパンフレットや、年金加入記録に「もれ」や「誤り」があった場合に提出する「年金加入記録回答票」が同封されているから、それを詳しく見るのが大事だよ。