連載:わかりやすい年金のお話

第2章 公的年金をしっかり活用するには?
第3節 夫婦そろって定年まで正社員でいることが重要?

花子(ライター):去年、大変話題になった英国はロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン氏が著した『LIFE SHIFTー100年時代の人生戦略』によると、2007年に生まれた日本人の赤ちゃんで107歳まで生きる確率は50%あると書かれているわ。これは人口動態の統計から読み取れる確度の高い予測数値だそうね。
 つまり、これから生まれる私たちの孫世代の子どもは22世紀まで生きられる可能性が半分くらいあるということね。

剛(編集者):うん、日本が「人生100年時代」を世界の先頭を切って迎えるわけだから誇らしいね。でもある意味ではその意味するところは末恐ろしいよ。なぜって、自分も読んだけれど、「教育・就労・退職」の3ステージの人生から脱却して80歳まで働けるようにならないといけない、と言われても、ただでさえ技術革新が進むコンピューター・テクノロジーの発展にヨボヨボになってもついていけないと、その人の平均余命はまだあるのに経済的に立ちいかなくなる、というようにも解釈できるからね。

勉(研究員):さすが剛は編集者だから、裏読みが鋭いね。全くその通りで、「人生100年時代」という言葉はこれからの世の中では「長生きリスク」に対応しないと人生の終盤戦で惨めな思いをしますよ、ということなんだ。

花子(ライター):以前、勉の勤め先の年金〇〇〇プラン△△研究機構がやっているPLPセミナーに出てお話を聞かせてもらったことがあるけれど、退職後の人生で大事なのはそれまでの会社人生における仕事に代わる「生きがい」で、それを支える「家計経済」と「健康」が必要だということだったわ。つまり「長生きリスク」がこれから大きな社会問題になってくるということは、その「家計経済」が破綻しないように気を付けないといけないという訳ね。

勉(研究員):その通りなんだ。だからこれから話すことはもう60が間近の君たちには当てはまらないけれど、太郎のところにいる息子の二郎君やまだ結婚したてで育児と仕事に格闘中の若い夫婦に送るメッセージと思って聞いてほしいね。つまり、どんなに保育園が見つからずに大変でも、どんなに会社で嫌な同僚や上司が居て、つらい思いをしても、新入社員以来勤めてきた、もしくは中途採用で手に入れた、今の「正社員」という身分を簡単に放棄しないで、何とか「夫婦そろって定年まで正社員」で勤めあげることが大事だ、ということを伝えたいんだ。この前は、厚生年金がもらえれば何とか食べていけると話したけれど、もう少し詳しく数字で見てみよう。
まず収入だが厚生労働省によると、モデル世帯(夫40年加入、妻専業主婦)の標準的な老齢年金月額は約22万円だ。内訳は、夫の老齢厚生年金が9万円、老齢基礎年金が6万5千円、妻の老齢基礎年金も6万5千円となっている。
 支出の方は個人によって様々だからなかなか予測が難しいけれど、生命保険文化センターが行った「生活保障に関する調査」によると夫婦2人の「老後の最低日常生活費」の平均は約22万円、「ゆとりある生活に必要な生活費」は約35万円と出ている。
 だから計算上は、学校を出てから一度も働いていない「専業主婦」という想定でも、夫と離婚せず同じ世帯で老齢基礎年金と老齢厚生年金を死ぬまでもらえる場合、世帯としての最低限の収支はバランスしているように見えるよね。
 ところがだ、もし剛の奥さんの梅子さんのような専業主婦が夫と同じ稼ぎで定年まで正社員として働いていたと仮定したらどうなる?もしそうなら夫の老齢厚生年金の9万円が妻の老齢年金月額として世帯収入に加わることになるわけだからその額は約31万円になって「ゆとりある生活に必要な生活費」は約35万円にかなり近づくことが分かるよね?つまり妻が正社員として定年までバリバリ働き続けて老齢厚生年金をもらうなら、「人生100年時代」にシフトしようと、終身年金としてその分が老齢基礎年金の上乗せになるのだから、相当心強い家計経済の下支えになる、というわけだ。

花子(ライター):そうか、またしても宮仕えでもらえる老齢厚生年金の賛美というわけね。ということは、息子の二郎について考えてみれば、東京オリンピックまでは夢を追っかけていても良いが、それが終わったら自分の遠い将来のことも考えて中途採用でどこかで正社員として働ける口を求めるのと同時に、正社員で定年まで勤めあげられそうな有能なパートナーを探すようにアドバイスしたほうが良さそうということね。

勉(研究員):花子自身へのアドバイスとしては、国民年金保険料をどうせ払うなら口座振替で前納すると良いよ。2年分の割引は10%弱だから馬鹿にならないぞ。それと二郎君は、今みたいなアルバイト生活を続けていると、たとえ国民年金保険料を払い続けても老齢基礎年金の6.5万円だけだ。今後「マクロ経済スライド」で物価の伸び率に比べると年1%ほどの調整率を引かれることになっている。つまり年金の増額がインフレについていけず、実質的な価値が次第に目減りしていくことになる。だから老齢基礎年金だけでは生活保護のお世話になることになるかもしれないということだな。老後の暮らしが心配なら老齢厚生年金がもらえるよう、自分が正社員になることだ。

花子(ライター):やれやれ、困ったものね。夢を追う若者に分かってもらえるかしら…。