連載:わかりやすい年金のお話

第4章 確定拠出年金制度(DC)早わかり
第3節 個人型DC(iDeCo)とNISAはどっちがお得?

花子(ライター):前回は企業型DCのマッチング拠出とiDeCoとつみたてNISAの関係を教えてもらったけれど、第1号被保険者の私には企業型DCがそもそも関係ないのよね。今日はiDeCoとNISAの優劣を比較して徹底的に教えてくれない?

勉(研究員):そうだね、iDeCoがNISAに比べ優れている点は以下の通りだ。
 第一に、拠出時の比較をしよう。iDeCoの場合、一定限度額までは支払った金額の全額が所得控除されて所得税・住民税が安くなるのに対し、NISAには所得控除に該当するメリットはないよ。加入者の多い個人年金保険と比べるとiDeCoの年間所得控除額は10倍以上の額となる場合もあるよ。
 第二に運用時だけれど、iDeCoを含むDCでは何度売買しても運用益が非課税であるのに対し、NISAも運用益非課税ではあるものの、いったん売却した投資枠は再利用不可となるのは要注意点だ。
 第三に受取時だが、iDeCoを含むDCは一時金で受け取る場合、退職所得となるので非課税枠(退職金と合算)を利用することができる。例えば、30年間積み立てた場合、最大で1,500万円まで非課税となるよ。NISAにはないメリットだね。

花子(ライター):あら、でも私はお勤めをしている人と違って「退職」はしないんだけれども、「退職所得控除」を受けられるわけ?

勉(研究員):うん、そうなんだ。お勤めの人が年金資産を退職時に一括で受け取る際、全額が課税されるのではなく、勤続年数に応じて算出した退職所得控除額を差し引くことができるのを援用してiDeCoの場合は掛金を拠出していた期間に応じて計算をするんだ。

花子(ライター):よかった!でも私も50代半ばだから最大限の拠出額の81.6万円を掛け続けても60歳までには退職所得控除の上限額にはとても届かないな。でも何故、国は65歳まで雇用せよ、と言っておきながらiDeCoを含むDCは60歳までしか拠出できないの?

勉(研究員):そこは税制メリットのある制度だから税務当局がなかなかウントは言わないんだろうね。それと注意しないといけないのは、花子は今、55歳だとして60歳まで5年間しか掛金を支払えないので、一時金をもらおうと思っても受取可能になるには63歳まで待たなければならないことだよ。
 それと一時金で受け取って住宅ローン返済に充てるというようなニーズがないなら、受取ってしまうと自分で資産を管理する必要があることも考えておかないとね。受け取った資金を貯蓄や運用にまわすと、その場合は、運用益に税金がかかるだけでなく、iDeCoの商品ラインナップの手数料(信託報酬)が自分で運用するものに比べてずっと安いことに注意しないとね。

花子(ライター):じゃあ、掛金を払わず運用指図だけ続けられるのはいつまで?

勉(研究員):70歳までだよ。年金として受け取る場合に税金はどうなるかというと、雑所得として公的年金等控除対象となるんだ。ちなみにNISAではそのような税制メリットはないからね。
 第四の優位な点は、投資総額の差も大きいよ。NISAでは、年間利用限度額が120万円、期間5年と限られ、最大でも600万円までしか投資できない。それに比べるとDCは、自営業者の場合、最大額を20歳から60歳まで40年間積み立てれば、累計で最大限3264万円まで積み立てることが理論的には可能だ。

花子(ライター):へぇーそんなに積み立てられるの?もっと若い時に知っていれば今頃心配しなくても済んだのにな…。

勉(研究員):第五に商品構成も異なっている。iDeCoを含むDCには元本確保型商品もあり、選択肢が広いのに比べ、NISAは預金等には使えない。

剛(編集者):iDeCoの有利な点だけ言っているけれど、NISAに比べて不利な点もあるんだろう?

勉(研究員):唯一、NISAと比べてデメリットと考える人もいるのは、iDeCoも含めDCは60歳まで引き出せないという点だね。しかし、これもDCの活用を「老後資産の形成手段」と考えるのであれば、途中で引き出せると肝心の老後に資産が残らない危険性もあるので、メリットだと考えることも出来るだろう。
 ということでiDeCoを含むDCが「老後の為の資産形成の最良の手法」というのは税金面から見れば明らかだけれど、花子のように手元資金に余裕があって、既に50代半ばの人はiDeCoと一般NISAの併用がお勧めだよ。一般NISAとつみたてNISAは併用できないけれどね。花子の場合にiDeCoは年間掛金上限が81.6万で一般NISAが120万だからそれを目いっぱい積み立てて税制メリットを享受しながら老後資金の貯蓄に精を出すというのが結論だね。
 これで僕の解説は一旦、終了ということにしよう。

花子(ライター):良く分かったわ。長いことお世話になりました。

剛(編集者):いや全くDBの時代と変わってDCに向き合う為には相当、自分で勉強しないことが良く分かったよ。ありがとう。

第1号被保険者にとってのiDeCoとNISAの比較表

iDeCo 一般NISA つみたてNISA
投資限度額 自営業者年間81.6万円
加入者の職業により可変
前々回コラム・グラフ参照
年間120万円、最大600万円 年間40万円、最大800万円
運用期間 20~60歳
(10年間延長可能)
5年(最長10年) 20年間
運用商品 定期預金・保険・投資信託 株式・投資信託・REIT・ETF 手数料の低い、限られた投資信託とETF
換金性 60歳まで原則不可 換金可能 換金可能
節税メリット 拠出時…全額が所得控除
運用時…何度売買しても運用益が非課税
受取時一時金受取は退職所得となり無税、 もしくは税率が低くなる
売買益・配当金・分配金などの投資で得た利益にかかる税金20.315%が非課税 売買益・配当金・分配金などの投資で得た利益にかかる税金20.315%が非課税

出典:厚労省HPから著者作成

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