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わかりやすい年金のお話 1-(1)
第1章 「年金」は複雑でわからない?
 第1節 社会保障と社会保険と年金「保険」はどういう関係?

2019.01.09コラム

第1章 「年金」は複雑でわからない?

 

第1節 社会保障と社会保険と年金「保険」はどういう関係?

 花子さんはフリーランスで独身の50代半ばの売れっ子ライターです。先月もある機内誌の特集でズワイガニの解禁日に金沢に行き「加賀温泉郷の紅葉狩りと金沢の食文化」を記事にしました。来月は信州千曲リバー・ワイナリーの記事を書くことになっていて、毎月の可処分所得は同世代に比べると多い方です。

 得意分野はグルメですが、依頼があれば生活雑貨の優れもの紹介から暮らしに役立つお得な投資の情報まで何でも文章にすることで生計を立てています。花子さんは今はシングルですが、実は学生時代に一度結婚しています。元夫の太郎さんは家具のデザイン会社に勤めた後、今は独立して会社を経営していて、太郎さんのもとには、去年大学を卒業して就職せずにアルバイトで稼いだお金をサーフィンにすべて使って「東京オリンピックを目指す」と公言している一人息子の二郎さんがいます。

 最近、花子さんが仕事上、懇意にしていた機内誌の編集者でやはり50代半ばの剛さんが上司と衝突して嫌気がさし、ある中小出版社に転職しましたが、給料が低いと嘆いているので、近々、一献傾けながら、よもやま話をしようと約束しています。

 剛さんは職人気質の編集者で、相性の良しあしで仕事の出来栄えも変わってしまうというようなタイプです。剛さんには子供はおらず、8つ年下で専業主婦の梅子さんと二人だけなので、あまり将来のことは気にせず狭い借家ですが夫婦そろってジョギングに打ち込んでマラソン大会に出るのが趣味という、精神的にはゆとりある生活を楽しんでいます。

 ライターの花子さんはいつも記事の材料を探しているので、編集者の剛さんと相談して、せっかく会うなら新しいネタを仕入れる為にも役立つ誰かを誘うことにしました。そこで公益財団法人年金○○〇プラン△△研究機構の研究員をしている同世代の勉さんと三人で会って話しているうちに、お互いに還暦がそう遠くないこともあって自然と話題は年金の話になってきました。

「年金は複雑で分からない!」という花子さん剛さんに、専門家の勉さんが「分かり易い年金のお話」をしているところです・・・

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 花子(ライター):10年前くらいには「年金財政は破綻している」という極端なコメントをよく聞いていたけれど、最近はあまり聞かないわね。年金制度は巨大で複雑なので、ちょっと勉強したぐらいでは全体像が分からないのよね。よく分からないと、そういうコメントをテレビや週刊誌で見たりすると不安になって、「危ないぞ」という評論家の意見につい惑わされてしまいそうになるけれど、年金の全体像というのはどう考えればよいの?

 勉(研究員):年金制度はそれだけで考えられるものではなく、国の他の制度、すなわち医療、介護、生活保護といった他の社会保障制度や、企業の退職金制度、さらには個人が保険会社から買う個人年金などと合わせて国民一人ひとりの生活を支えてくれるものになっているんだ。だけれども、そこまで広げると全体像がどうなっているのかは、正直かなりわかりにくいよね。
 そもそも社会保障制度と社会保険と年金の関係が分かっているかな?

 花子(ライター):社会保障費というのは高齢化が進む日本では国家予算のなかでもどんどん大きくなっているので、大阪で万国博覧会が行われる2025年には団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になっていくから、我が国の社会保障制度の持続性が脅かされている、というのでしょう?

 勉(研究員):そう、それを「2025年問題」と言うね。今、話題の消費税の使い道でも従来は社会保障三経費と言っていたのを、安倍政権では子育てを加えた社会保障四経費と言い直して「年金、医療、介護、子育て」と全世代対応型の社会保障へと使い道を拡張しようとしているね。

 剛(編集者):社会保険というのは社会保障の中でも「保険」がくっついている「医療保険、介護保険、雇用保険、労災保険」だろう?つまり病気やケガ、事故、失業、老後の生活などのリスクに備えて、国民の生活を保障するために設けられた公的な保険制度だから国民は社会保険に加入して保険料を負担する義務があるわけだよね?

 勉(研究員):さすが編集者の剛は良く分かっているけれど、社会保険で一番予算を使っているのが抜けているんじゃないかな?

 花子(ライター):それは年金でしょう?だけれども年金には保険という用語が付かないのではないの?

 勉(研究員):いや本来は年金保険と保険を付けて言うべきだけれど、厚生労働省のホームページを見てもその組織名が年金局になっているね。年金保険の「保険」を通常では付けないようになっているから忘れられているわけだ。社会保障制度としては以下の表のように「社会保険」、「社会福祉」、「公的扶助」、「公衆衛生」から構成されているんだ。この中で社会保険に分類されているのが年金保険で、老後に年金をもらう為には少なくとも10年間払わないともらえないよ

花子(ライター):つまり私たちが老後にもらう年金という制度は社会保障制度の中の社会保険としての年金保険だから、負担と受益のリンクが強いということになるわけね?でも社会保障制度の予算の中でどれが一番大きいの?

勉(研究員):以下の図を見て明らかなように社会保障費の中で年金5割、医療3割、福祉2割と言われているよ。高齢化社会の到来で医療費も増えているけれど、やはり何といっても年金にはGDPの一割ものお金がかかっているんだ。

この図の【負担】の中で「税46.3兆円」とあるのは、より正確には公費負担だ。その下の内訳にある「うち国32.7兆円」の国庫負担の中の税財源で賄えない国債発行分は、将来世代に負担を先送りしているわけだ。

剛(編集者):ということは財源を確保出来ていないため、給付と負担のバランスが崩れて将来世代に負担を先送りしている、つまり財政悪化の要因になっているというわけだな。

花子(ライター):労働人口が減っている日本では、社会保険方式だと言いながら、雇い主と本人が負担する社会保険料だけでは賄いきれないなら、消費税を上げなくてはいけないわよね。景気に配慮とか政府は良く言っているけれど、所詮、選挙対策でしょう?2019年は必ず消費税10%に上げないとね。

勉(研究員):今の日本は年金保険を含む社会保障制度の持続可能性が損なわれかねない瀬戸際だということが分かってもらえれば結構だよ。今日は力が入りすぎて少し長くなったけれど、次回からはもう少し簡潔に話そう。